レント消失
Ostrom文脈での「
レント消失(rent dissipation)」
定義
共用資源(CPR:漁場・森林・灌漑水など)で、本来なら制度があれば得られる超過利益(資源レント)が、
無制限参入・過剰採取・位置取り競争・装備競争・紛争コスト等で焼き尽くされてゼロ近くになる現象。
なぜ起きるか(CPRの構造)
排除が難しい → 参入が止まらない(open access)。
競合的消費(subtractability) → 他人の採取が自分の利得を減らすので、先取りの競争が起きる。
結果、効率を高めないコスト(装備増強・夜間番・監視回避・争い)が増え、レントが消える。
公共財との対比(Ostromの二類型)
公共財:過小供給(ただ乗り)。
共用資源:過剰利用(レント消失)。
→ どちらも制度設計が要るが、歪みの向きが逆。
ミニ数式(直感用)
資源レント ≒ 総収入 − 総費用 − 正常利潤。
最適管理(MEY):レント > 0。
無規制参入:利潤が競争で π→0(平均収入=平均費用)→ レント消失。
典型パターン
漁業の「装備・速度競争」:漁獲量はさほど増えないのに費用だけ増加。
灌漑の「上流の先取り+下流の当番/ポンプ増」:総利得は伸びず、労力・争いコストが増える。
Ostromの解法(レント温存の制度)
デザイン原則に対応:
1. 明確な境界(メンバーと資源域の画定)
2. 資源とルールの適合(採取量・季節・道具の制限)
3. 当事者参加のルール形成
4. 監視(仲間による相互監視)
5. 段階的制裁
6. 紛争解決の場
7. 外部当局の承認(自主管理の権威付け)
8. 多層的統治(広域は上位レベルで調整)
→ オープンアクセスを共用“財産”体制に変えることで、過剰競争を抑え、レントを共同体内に残す。
関連概念との違い
レント消失(CPR):自然資源のアクセス・採取の競争で生じる浪費。起点が異なるが、社会的余剰を無駄にする点は共通。