NISHIO Hirokazu[Translate]
中位投票者定理
中位投票者定理とは多数決で一つの連続的政策(左右・増減など 1 次元)を選ぶとき、有権者の選好が「単峰型(single‑peaked)」で、すべての人が必ず投票に参加するという前提のもとでは、「社会的に採択される政策は中位(メディアン)有権者が最も好む点になる」と示す定理です。

前提条件
1. 政策が一次元
例:税率を 0〜100% で一本化
多くの争点は複数軸(経済・社会・外交…)
2. 選好が単峰型
それぞれ「ここが最適、離れるほど嫌」
イデオロギーが極端/跳ねる場合は不成立
3. 完全参加・誠実投票
全員が本音で投票
棄権・戦略投票・情報の非対称性

直感的な証明スケッチ
有権者を政策軸で並べる。
中位点より右側の有権者は、左側の案より右側の案を常に好む(逆も同様)。
したがって中位点を越えて右へ動くと、左半分+中位の票が失われ過半数を得られなくなる。左へ動いても同じ。
右へ少し動かすとどうなる?
中位の人は不満(元の位置が最適だった)。
中位より左にいる全員ももっと不満。
その人数だけで過半数超えになる → 反対票が過半数、採択できない。
結論
中位点を離れると必ず過半数が反対に回るので、中位点が唯一“動かせない”安定点になる。
結果として 中位点 が多数決で安定(ナッシュ安定)する。

政治への含意
政策の収斂:選挙で勝ちたい政党は中位有権者を意識し、極端な公約を薄める傾向(ダウンズ 1957)。
二大政党制の安定要因:一次元であれば両者が中央値争奪に集中しやすい。
ポピュリズム vs. 中道:中位点が変動すると政党のポジションも急に動くため、世論のシフトが政策を大きく揺らすことがある。

限界・批判
多次元化すると崩れる
2 軸以上では「投票のパラドックス」(循環多数決)が発生しやすい。
戦略投票
候補数が 3 以上だと「逃げ馬」への票などで結果が動く(ギブンスの定理)。
投票コスト・棄権
実際の選挙では参加率が偏り、中位投票者≠中位有権者となる。
情報とフレーミング
同じ政策でも提示方法で単峰性が崩れ得る。

まとめ
中位投票者定理は「一次元・単峰型・完全参加」というシンプルな環境で、多数決が安定点を持つことを示す強力な結果です。ただし実際の政治は多次元・戦略行動・不完全情報が絡むため、近似的な指針として捉え、どの前提が破れているかを常に検証する姿勢が重要です。
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