アブダクション―仮説と発見の論理
米盛裕二氏の著書『アブダクション―仮説と発見の論理』では、
アブダクション(
仮説形成)の評価基準として「
拡張的」であることが重要であると論じられています。具体的には、アブダクションは新たな知識や仮説を生み出す「
拡張的推論」として位置づけられ、既存の知識を再構成する「
分析的推論」と対比されています。この拡張性により、
科学的発見や
創造的思考が可能になるとされています。
米盛氏は、アブダクションが新しい仮説を生み出す過程で、観察された
意外な事実や
変則性に対して説明を与える「
説明仮説」を形成する思考または推論であると述べています。このプロセスは、科学的探究において重要な役割を果たし、
知識の拡張に寄与するとされています。
このように、アブダクションにおける「拡張的」であることは、新たな仮説や知識を創出する能力を評価する上での重要な基準となっています。
米盛(2009:9)で論じられているアブダクションの評価軸として「拡張的かどうか」が重視されるという趣旨は、アブダクションが単に既存の知識を再配置するだけでなく、新たな解釈枠組みや仮説を提示して思考を拡張する働きを持つ点に着目していると考えられる。演繹や帰納と異なり、アブダクションは「説明仮説を立てる」過程で飛躍が生じやすいため、その飛躍がどの程度新しい理解や可能性を切り開くかが評価の鍵となる。
具体的には、「拡張的なアブダクション」ほど新しい理論的視点や複数の文脈に適用可能な示唆を与え、既存の知の枠を越えた再解釈を生む。その結果、問題解決のみならず、周辺領域や後続の探究への波及効果をももたらしうる。一方、拡張性の乏しいアブダクションは、仮説自体は成立しても新規性や発展性に乏しく、科学的・学問的なインパクトが限られる。したがって米盛は、アブダクションを評価する際に「拡張性の程度」を重視することで、どのような仮説がより豊かな知的成果をもたらしうるかを測っているとみられる。