NISHIO Hirokazu[Translate]
老人狩り
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1. イントロダクション
日本は世界で最も急速に高齢化が進む国だ。2024年時点で総人口の 29.3 % が65歳以上を占める一方、15〜64歳の生産年齢人口は6割を切った。
stat.go.jp

年金・医療負担の増大と若年層の賃金停滞が重なり、「高齢者=コスト」という短絡図式がオンラインで拡散しやすい土壌が出来上がっている。

2. “老人狩り” とは何か
1990年代後半に流行語になった 「オヤジ狩り」(中年男性を狙った暴行・恐喝)を下敷きに、近年は抵抗しづらい独居高齢者をターゲットにした強盗や恐喝を指して “老人狩り” と呼ぶ向きがある。メディア報道では2018年頃から散発的に使われ始めた。
www2.kokugakuin.ac.jp

3. 代表的ケース:千葉県茂原市(2018年)
事件概要:17〜19歳の少年3名が85歳女性宅に侵入し、現金約1万2000円を奪った上で殺害。

動機:「年寄りなら抵抗しない」。わずかな金銭目当てだった。

社会的衝撃:少年非行と世代間ヘイトが結び付いた象徴的事件として議論を呼んだ。
chibanippo.co.jp

4. 最近の傾向(2024–2025年)
愛知県西三河地方:就寝中の高齢者宅を狙う窃盗が140件発生し、25歳被疑者ら3名が逮捕(2025年6月)。
nagoyatv.com

静岡県浜松市:帰宅途中の高齢男性が路上で襲撃され負傷(2025年6月)。
sut-tv.com

これらは個別事件にとどまるものの、従来の“特殊詐欺”に加えて 直接的な暴力行為が増える兆し と見る専門家もいる。

海外読者への比較視点
ヨーロッパでも年金改革を巡るデモはあるが、高齢者を物理的標的にする犯罪はまだ限定的。
日本は銃規制が厳しく致死率は相対的に低いものの、殴打・刃物・押し倒しなどの「素手に近い」手口が使われる点は注目に値する。

対策・展望
コミュニティ再接続:自治体が世代混合の交流拠点を設け、互助感情を回復させる。
オンライン憎悪の抑制:プラットフォームと協調し、差別的ハッシュタグの拡散を減速させる。
生活保障の再設計:年金・医療制度を“対立ゼロサム”ではなく“世代協働”に転換した財源設計を提示する。
若年層の包摂:貧困・教育格差への政策介入により、犯罪誘因を封じる。

8. まとめ
“老人狩り”はまだ統計的に突出した大波にはなっていない。しかし人口構造・経済環境・オンライン言論が重なり合う 「静かな臨界点」 は近い。世代間の信頼回復を怠れば、点は線へ、線は面へと広がる恐れがある。


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