>もともとは元アルチュセール派の哲学者アラン・バデューが創案した概念である(『主体の理論』,ガリレー,1982).ある何らかの行為者(エージェント)が,大きな変動や変化の条件を作りだし,そのプロセスが定常化するさい,可視的な場面からは消え去っていく運動をあらわす.ある状態と次の状態の媒介者は遡及的にしか見いだされない,これが「消滅する媒介者(vanishing mediator)」である.フレドリック・ジェイムソンは『理論のイデオロギー』第2巻(The Ideologies of Theory, Vol.2. Syntax of History,1988.=邦訳『のちに生まれる者へ』,紀伊國屋書店,1993.ただし邦訳版ではこの論文は訳されていない)の論文「消滅する媒介者,あるいは物語作家としてのマックス・ウェーバー」において,資本主義とそのエトスを発動させつつ,いったん資本主義システムが安定化,高度化してからは歴史の表舞台から消え去ってしまうプロテスタンティズムを「消滅する媒介者」として解釈,分析している.ジジェクはスロヴェニアをふくむ旧ユーゴの民主化のプロセスにおいて,「新しい社会運動」や「パンク・ムーヴメント」が「消滅する媒介者」の役割をはたしたと随所で指摘している.一種の知識人政党である彼らの「自由民主党」もそのなかの一つだった.