NISHIO Hirokazu[日本語][English]

⿻PluralityとPlural Management Protocol

2024-03-30 なめら会議4講演

  • サイボウズラボ/一般社団法人未踏 西尾泰和

⿻Plurality本

  • "⿻ 數位 Plurality: The Future of Collaborative Technology and Democracy"
  • Audrey TangGlen WeylがGithub上で書いている"OSSとしての本"
  • 2024-03-24に英語版の原稿が完成!PDFはこちら
  • image
  • なめら会議でも何度か言及されてきたが、この機会に何も知らない人向けに説明する

Audrey Tang

  • プログラマー、オープンソースコミュニティでの活動
  • 32歳のときひまわり学生運動(2014)
    • 2014年3月18日に、中華民国(台湾)の学生と市民らが、立法院(日本の国会議事堂にあたる)を占拠した学生運動から始まった社会運動。--- ひまわり学生運動 - Wikipedia

    • ケーブルを引いてブロードバンド接続、Live中継
      • 既存メディアではなく直接の情報発信共有の手段を作った
      • (Audrey) 私は学生たちが立てこもる立法院内の様子をg0vのメンバーとともにネットでライブ配信して、学生たちの運動を支援しました。私たちはライブカメラで立法院の中と外をつないで、20の民間団体が人権・労務・環境問題などを話し合えるようにしました。そして、3週間で4つの要求をまとめて立法院の議長に提案しました。すると、当時の議長はその4つの要求が合理的なものであると認め、すべての要求に応えてくれたのです。 --- かつて立法院を占拠した台湾天才IT大臣が語る、自らのルーツ | ゴールドオンライン

  • 大臣のリバース・メンターを務める
  • 40歳のときデジタル大臣(2022~)

Glen Weyl

交換様式論の雑な説明 世界史の構造(2010)遊動論(2014)Dの研究(2015〜2016)~力と交換様式(2022)

  • 1:
    • 血縁の小さな集団の中で取ってきた食料をシェアしてた
    • 共同寄託互酬的贈与、コミュニティ、交換様式A
  • 2:
    • 人数が多くなるとうまくいかない→「統治」(rule)の仕組みが必要
    • 服従すれば保護する、ルールに従わないなら罰する、国家、交換様式B
  • 3:
    • 国家権力の「ルールに従わないなら罰する」力によって私的な「契約」が可能になった
      • 契約を破ると国家権力に報復されるので抑止力が生まれ契約が守られる
    • 通貨、投資、市場、顔も知らない人との分業、資本主義、国家よりも広いメカニズム、交換様式C
  • 交換様式A→B→Cを経て、交換様式Aの高次での回復が行われる、これが柄谷行人のX
  • RadicalxChangeの意味の重ね合わせ
    • Radical Markets→Radical Exchange
    • Radical x Change
    • RadicalなXへのChange
  • (Audrey) ヴィタリックさんのEthereum上で研究開発された「新たな交換様式」は、不特定多数の人が公共の利益のために交換することを可能にするものです。これは一見すると個人のための利益に見えるかもしれませんが、最終的にはコミュニティー全体の利益になるという共通認識につながります。これらはメカニズムデザインの活用方法であり、私はこれを台湾の政治にできる限り応用するようにしています。...なぜこのような交換様式をRadicalxChangeと名付け、Radical x Changeと別々の単語に分けて表示しなかったのか。それは日本の文学者であり哲学者である柄谷 行人さんが提唱している交換様式X、すなわち「交換様式論」から着想したものだからです。

協力の深さと広さのトレードオフ

Plural Management Protocol

  • "⿻Plurality"の目指す方向に進むための技術は色々模索されている
  • その中の一つがGlenのPlural Management Protocol(PMP)
  • GlenはPlural Management論文で提案するだけでなく、実際に運用して検証しようとしている
    • Plurality本のプロジェクト自体がPMPの実験台
    • PMPを実装したGov4Git(GitRules)がGithubに導入されている
    • Golangで書かれたGithub Bot
    • A decentralized protocol for governing open-source communities based on git

PMPが必要な理由

  • 階層的組織の問題: 意思決定のボトルネックが生じがち
  • フラットな組織の問題: 一貫した方向性で行動することが難しい
  • あるあるだよねnishio.icon
    • 「みんなで協力してこのプロジェクトをやろう!」とチームを作っても、プロジェクト遂行に重要なタスクが放置されたままどうでもいいタスクが実行されたりする
    • プロジェクト遂行のためには、結局プロジェクトを自分ごとと捉えて「遂行に重要なタスクがこぼれた時に全部拾う人」が必要になる、これがリーダー
    • リーダーがプロジェクト立ち上げに必須なのに、プロジェクトが立ち上がって規模が大きくなると、リーダーが意思決定のボトルネックになる リーダーがボトルネックになる
  • 特にOSSの開発で、プロジェクトの成長に伴って、貢献の評価や優先順位付けが困難になる
    • 共有地の悲劇が話題になる。ソースコードはほぼゼロコストで複製できるリソースだ。食い荒らされてる「限られたリソース」は何?
    • バグレポートやプルリクエストが送られてきたとき、それがプロジェクトにとっての重要度なのかどうかの「評価」が高コスト
    • 意思決定を分散しないと「リーダー」に負荷が集中してしまう、つまり組織作りが必要なのだが、一人でソフトウェアを書くのが得意なエンジニアが組織の編成を得意とは限らない
  • これを解決するためにPMPを提案する

PMPのメカニズム

  • 主にQuadratic Voting(QV)とQuadratic Funding(QF)を組み合わせたもの
  • image
  • 課題の優先順位設定(QF):
    • メンバーはクレジットを使って課題の優先順位を設定する
    • 各メンバー$i$が$P_i$のクレジットを割り当てると、課題の優先度は
      • $\left(\sum_i \sqrt{P_i}\right)^2$となる。
    • この課題を解決した人がそのクレジットをもらう(QFの原理、後で詳述)
  • 貢献の承認投票(QV):
    • 提案された課題解決の貢献に対し、メンバーはクレジットを使って「採用して良いかどうか」の投票を行う
    • この時、$N$票投じるには$N^2$のクレジットを消費する(QVの原理)
    • (予測市場も組み合わされているが割愛)
  • 貢献の報酬:
    • 貢献が投票で承認されたら、貢献者に報酬として「優先順位設定で集まったクレジット」が支払われる
    • マッチングファンドから追加のボーナスが出る
    • 貢献の承認投票に使われたクレジットはマッチングファンドに移され、新たな貢献のインセンティブになる

実例

  • Plurality BookプロジェクトにおけるPMPの運用状況
  • 課題の優先順位設定
    • image
      • GithubのIssuesに対してQFして獲得ファンドの多い順に並んでいる
    • image
      • Issueの"Vote"をクリックするとこんな感じになって投票できる
    • 投票に使うクレジット
      • image
      • プロジェクトへの貢献の度合いが定量化され情報共有される
      • ゲームのscore board的な感じ
      • ゲーム内通貨でもある
    • 貢献提案の
      • image
      • [^PICSY]: An early implementation of such a value-propagating system is exemplified by PICSY, pioneered by Ken Suzuki in 2009.

      • どこかにPICSYの話を差し込めないか考えて、Liquid Democracyのところに脚注をつけた
  • プロジェクトの現状
    • 今はまだ「一人のリーダーが牽引する時期」
    • Glenが貢献判断をして貢献者にクレジットを新規発行してる
    • 承認投票のプロセスはまだ体験してない
    • 今後どうなっていくのか楽しみ

組織運営の「なめらか」化

  • PMPは、階層型組織とフラットな組織の中間を作り、組織運営における権限と意思決定の分散化をもたらす
  • 階層型組織との主な違い
    • 従来のOSSだったら「コミット権限のある少数の信頼されたコミッター」と「パーミッションレスに貢献提案ができるコミット権限のない一般人」の二値だった
    • 多くの階層型組織も「権限のある人」「それ以外」のステップ関数
    • PMPは貢献に基づいてクレジットが得られ、クレジットの量によって動的に管理権限が与えられる
      • 例えばtypoを見つけてプルリクエストをすれば1000クレジットくらいもらえて投票に参加できるようになる
    • なめらかな権限移譲
  • フラットな組織との主な違い
    • フラットな組織だと「何をやるべきか」「何が貢献か」を個々人がバラバラに考えがち
      • PMPではQFによって集合知的に課題の優先順位がつき「何をやるべきか」が決まる
      • PMPではQVによって集合知的に解決案の採否が決まり「何が貢献か」が決まる
      • PMP上でクレジットを稼ごうとする個人的利得を追う行為が、協調ゲーム的に集合知の形成につながる
    • メンバーの影響力が貢献と連動するメリトクラシー
      • 人数で発言力が決まる一人一票の投票ではなく、発言力を金で買う一ドル一票の投票でもない
      • プロジェクトの目的を理解して有益な貢献ができる「能力のある人」により大きな発言力が与えられる
    • クレジットのインセンティブで、参加と協力を促進する
      • 従来のOSSと同様に貢献の提案はパーミッションレスに受け付けられている
      • 僕も去年の10月くらいまでリポジトリの存在すら把握してなかった、まったくの新参者
      • そこから数ヶ月の活動
        • どうすればクレジットを得られるかIssuesを眺めて考える
        • できそうなことが見つかったので貢献提案してみる
        • 受け入れられてだんだん貢献のコツがわかってきたのでもりもりと貢献した
        • その貢献がクレジットとして蓄積され、可視化された

最後に

  • これはすごく面白いことが起こりつつあると思っている
  • 2024-03-24に英語版の原稿が完成したのでぜひ読んでみて: PDF
  • サイボウズ式ブックスから和訳の本を出すよ、月曜に翻訳者とミーティングの予定
  • 英語ができるなら公式Discordに参加しよう: Invite link
  • 日本語でのサポートはこちら: /plurality-japanese

以下は未使用の断片

  • メンバーの積極的な参加と組織の戦略的な方向性を両立させるためには、貢献と影響力を動的に結びつける仕組みが不可欠だ

  • PMPは、階層的統治と市場的統治(みんな個人のインセンティブで好き勝手にやって結果的に分業や協力が行われるメカニズム)の間をつなぐ統治方法

    • Q: 市場的統治がなぜダメなのか? A: それじゃ組織いらんよね。組織の中に"市場調達できないリソース"が蓄積されて市場での分業よりも効率的な協力が可能になることに組織の存在意義がある
  • PMPは階層と平等のバランスを取りつつ、貢献に基づく動的な権限配分と集合知の活用により、柔軟性と適応力、戦略的な意思決定、協力的な組織文化を実現しようとするものだと言えるでしょう。組織論の新しいパラダイムとして、PMPが持つ意義は大きいと考えられます。

  • PMPが組織運営のパラダイムシフトをもたらす可能性

    • PMPは、組織運営における権限と意思決定の分散化を通じて、組織論のパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めている
    • 第一に、PMPは貢献と参加に基づく動的な権限配分を導入することで、伝統的な階層型組織の前提に挑戦する
      • 地位ではなく実際のパフォーマンスに応じて影響力が決まるというメリトクラシー的な仕組み
      • メンバーのモチベーションと組織へのコミットメントを高める効果が期待できる
      • また、意思決定のボトルネックを解消し、組織の機動力と適応力を高めることにもつながるでしょう。
    • 第二に、PMPはメンバーの集合知を活用する仕組みを提供することで、組織の意思決定の質を向上させる可能性があります。メンバーが組織の優先事項を予測し、貢献の評価に参加することで、多様な視点からのフィードバックが得られ、より適切な意思決定が可能になります。この点で、PMPは組織の学習と進化を促進するパラダイムとして注目に値します。
    • 第三に、PMPはクレジットというインセンティブ設計を通じて、協力と公共善の創出を促す新しい組織運営のモデルを提示しています。個人の利得と組織の利益を動的に連動させるこのアプローチは、伝統的な組織論では見落とされがちだった協力の問題に光を当てるものです。PMPが示唆するのは、個人の合理性と組織の合理性をつなぐメカニズムデザインの重要性だと言えるでしょう。
  • もちろん、PMPにも課題や限界はあります。既存の組織文化との摩擦、メンバー間の新しい力関係、クレジット経済の安定性など、実践的な問題は残されています。しかし、階層と分散、個人と組織、競争と協力のジレンマに挑むPMPのアプローチは、組織論のパラダイムシフトにつながる新しい可能性を示していると評価できるのではないでしょうか。今後のPMPの発展と実装の積み重ねを通じて、組織運営の新しいパラダイムが切り拓かれていくことが期待されます。


(C)NISHIO Hirokazu / Converted from Markdown (ja)
Source: [GitHub] / [Scrapbox]