NISHIO Hirokazu[Translate]
世論は存在しない
o3〈世論〉は調査が作り出すフィクションである

1972年の講演「世論は存在しない」でブルデューは、世論調査が前提とする三つの無自覚な仮定
①誰もが何事にも意見を持つ
②すべての意見は等価
③設問の枠組みは自明
を批判しました。実際には多くの人が「意見未形成」の領域を抱え、また専門知識や当事者性の差で意見の重みは不均衡です。さらに、質問の切り取り方自体が政治的利害を反映し、“何を論じるか”を権力が決めている。

ブルデューにとって調査とは、対象そのもの(〈公共圏〉)を作り出す「生成的装置」です。結果が報道されることで「多数派の声」が既成事実化し、反対意見は「孤立化の恐れ」ゆえ沈黙に追い込まれる。この過程を彼は象徴権力の作用と呼び、統計という中立的に見える形式が政治的支配を不可視化すると警告しました。

>「世論調査は政治的行為の道具であり、『世論が存在する』という幻想を課す」(PDF)

ブルデューの洞察は、現代のオンライン投票やリアルタイム世論分析にも通底します。可視化される数字が討議の出発点を規定し、アルゴリズムが“重要トピック”を決めるとき、沈黙している〈声なき多数〉はますます不可視化される――そんな二重の排除構造を照射する理論的枠組みを今なお提供しています。

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