NISHIO Hirokazu[Translate]
マンハイムのパラドクス
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「すべての知は社会的・イデオロギー的条件に規定される」という前提を取ると、その主張を行う〈知識社会学〉自体も同じ規定を受けるため、客観的な立場を確保できなくなる──という自己言及型のジレンマを指す。

1920年代後半
イデオロギーの一般化:あらゆる立場の思考は社会的・歴史的条件に「位置づけられる」
知識社会学を提唱し、階級・世代・教育などとの対応を分析軸に 「誰の考えもどこかの立場に根差す」という全方位的な相対化
同書での自己処理
相対主義へ陥る危険を自覚
関係主義 relationism:複数視点を比較・統合する反省的作法で「より高い総合」に近づける、と主張
完全な客観性でなく“浮遊する知識人”の相対的統合で乗り切ろうとした
マンハイムは「自由浮遊知識人free-floating intelligentsia)」という半ば周辺的な立場を研究主体に想定し、多元的視点の統合を試みることでパラドックスを回避できるとした。
真理はまったく主観的。視点間で優劣を付けられない
関係主義(マンハイム)
視点は部分的だが比較・統合法は可能。複数の立場を往還し「より広い視野」へ接近できる
マンハイムの狙い
イデオロギー概念を拡張し、「みんな相対的」という事実を可視化する
それでも学問的批判を続ける道として、“関係主義”+“自由浮遊知識人”モデルを提案
1964(1973再録)
戦後の「イデオロギー終焉」論を批判し、イデオロギーを意味を織り上げる象徴体系として再定義
この過程でマンハイムの自己言及的問題を “マンハイムのパラドクス” と命名
「イデオロギーを暴く視点もイデオロギー」という自己無効化の罠を指摘
ギアツの処方箋
利害還元や社会位置のみに還元せず、文化の「物語・象徴・儀礼」が世界認識をどう支えるかを厚く読む(thick description)
「立場を暴く → また暴かれる」の無限後退を避けるため、象徴・物語レベルの文化分析に軸足を移した
イデオロギーを「誤った認識」ではなく、「世界を把握し秩序づけるシンボリックな枠組み」と理解し直した
立場性の袋小路を、“意味の編み目”分析へ転換



背景 — マンハイムの知識社会学
カール・マンハイム(Karl Mannheim, 1893-1947)は『Ideology and Utopia』(1929 独語版/1936 英訳)で、「思考様式はその担い手の社会的位置に結び付く」という関係主義relationism)を提唱した。
この拡張されたイデオロギー概念は、特定階級だけでなくあらゆる立場の思考を相対化する。
パラドックスの内容
普遍主張の自己破壊
「すべてがイデオロギー」であるなら、〈すべてがイデオロギーである〉という命題自身もイデオロギーになり、真理主張としての足場が失われる。
批判の無限後退
どの視点で他者のイデオロギーを暴いても、その視点がさらに別のイデオロギーとして暴かれる連鎖に陥る。
提起と命名
用語自体は人類学者クリフォード・ギアツ(Clifford Geertz)が1973年に明示化し、ゼノンのパラドクスになぞらえて「社会学的分析の客観性を揺るがす問題」と評した。


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