よそ者がつくるローカルなコミュニティ
論文「『よそ者』がつくる『ローカル』なコミュニティの役割と特徴」(
権 永詞, 2021)
問題設定
従来の環境倫理は、
生産(生業)における自然破壊
保全 vs 保存の対立
伝統的共同体における自然との「生身」の関係
を中心に論じてきた。
しかし現代社会では:
都市化・個人化が進行
伝統的共同体が弱体化
都市住民は自然と切断された生活をしている
この状況で、「都市の人間は自然とどう関われるのか?」が本稿の核心的問い。
鬼頭秀一の「社会的リンク論」が理論基盤。
生身の関係: 人間と自然が社会・経済・文化を含む総体的関係の中で結びついている状態。
切り身の関係: 自然が管理・消費の対象として部分的に扱われる状態。
従来は「生身」は農山漁村に残るとされ、都市のレジャー(登山・観光)は「切り身」と見なされがちだった。
本稿はこの前提を再検討する。
■ アウトドア・アクティビティの特徴
アウトドアの本質は:
① リスクを含む遊び
自然がもたらす危険をゼロにできない。→ 危険を受け入れ、それに適応する。
② 自助努力の倫理
安全は基本的に個人の判断と技術で確保する。→
個人主義的性質を持つ。
③ 自然改変への抑制
クリーン・クライミングの倫理
(チッピング禁止、ボルト制限など)
→ 自然を改変せずに自分を適応させる。
この点で、単なる消費的レジャーとは異なる倫理が内在している。
高知県の事例
高知県では人口減少・高齢化が進行 / 自然を観光資源化する政策が展開
一方でクライミング・コミュニティは、観光政策とは別に、トポ(ルート地図)出版 / ルール明文化 / マナーの共有 を通じて独自の文化を形成。
これは単なる集客ではなく、「どう岩と向き合うか」というスタイルの提示である。
「ローカル」と「地元」のズレ
重要な発見:
「ローカル」=アクティビティの中心メンバー
は必ずしも一致しない。
ローカルはしばしば「よそ者」。
しかし:
ビジターのマナー問題
地元との摩擦
アクセス問題
の調整役を担うのはローカル。
つまり「よそ者」が、
自然と地域社会のあいだの倫理的仲介者になる。
■ 結論
本稿の主張は:
1. 現代のアウトドア・アクティビティは
伝統的マイナー・サブシステンスとは異なるが
新しい形の「生身」の関係を作りうる。
2. 都市の人間は単なる消費者ではなく、
「ローカル」になることで
自然との文化的関係を形成できる。
3. 「遊び」は環境倫理において周辺的ではなく、重要な回路である。
最後に著者は、
生存(survival)ではなく生活(life)を考えること、
そして「遊び」の中で倫理が鍛えられる可能性を強調している。
■ 一文まとめ
この論文は、都市の「よそ者」でも、アウトドアというリスクを伴う遊びを通じて、自然との「生身」の関係を形成しうることを、クライミング・コミュニティの事例から示した環境倫理研究である。