NISHIO Hirokazu[Translate]
多数決が分断を煽る
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多数決、とりわけ“勝者総取り”型の制度は、少数派を議会から締め出すゼロサム構造ゆえに 「負けた側=無代表」という感覚を生みやすく、政党・集団の境界線を強調し “存在を懸けた戦い” へと煽る──その結果、社会的・政治的分断を深める傾向があると示す研究が蓄積されています。(ウィキペディア, Protect Democracy, Taylor & Francis Online, Taylor & Francis Online)

多数決が分断を生むメカニズム

一人区・単純多数制では票が少しでも上回れば議席を独占できるため、選挙は“全か無か”のゲームになると指摘されています。(ウィキペディア, Economics for Inclusive Prosperity) この構造は「敵を負かすこと」が動機となり、対立を煽る選挙戦術を合理化します。(Protect Democracy)

「多数派の専制」と少数派排除
トクヴィルは早くも19世紀に“多数派の専制”を警告しました。(NEH-Edsitement) 今日の研究でも、深く分裂した多民族社会では多数決と民主主義が両立しにくいと論じられています。(Taylor & Francis Online, スプリンガーリンク)

二大政党固定とイデオロギーの先鋭化
単純多数制は第三勢力を「死票」化させ、二大政党制を強化しやすい──その結果「我々 vs. 彼ら」という二極構図に国民意識が収束し、妥協が裏切りと捉えられると分析されています。(Protect Democracy, カーネギー国際平和基金)

誤情報・ネガティブキャンペーンのインセンティブ
候補が過半数だけを狙えばよい環境では、対立陣営の支持を下げる誤情報拡散が合理的戦略となり、フェイクニュースが増えるとの実証もあります。(gspp.berkeley.edu)

経験的エビデンス

比較政治学の知見
コンセンサス型 vs. メジャーリティ型
27か国を比較した近年の研究は、コンセンサス民主主義(比例代表・連立中心)の方がアイデンティティ分断に強いと報告しています。(Taylor & Francis Online)
深刻な分裂社会での失敗例と代替策
Lijphartは「深い社会的亀裂を抱える国では多数決は機能不全に陥りやすく、権力分有(consociationalism)が現実的」と述べました。(スプリンガーリンク)

アメリカの事例
極性化(pernicious polarization)
米国の単純多数・小選挙区制は「二陣営の相互不信」を恒常化し、先進国随一の分断レベルに達していると指摘されています。(Protect Democracy)
立法手続きの単純多数化論争
フィリバスター廃止で“単純多数ルール”を徹底すると分断が悪化しかねない、と保守・リベラル双方から警告が出ています。(TIME)
政治学的観測
議会のイデオロギー距離はテレビ普及以前の倍以上に拡大し、勝者総取りが合意形成を阻む要因と報じられています。(The New Yorker)

日本語文献
田村哲樹は、分断社会では熟議システム型の複線的制度設計が必要と論じました。(J-Stage)
明るい選挙推進協会のレポートも「透明性や代表性の欠如が信頼低下と分断を招く」と述べています。(明るい選挙推進協会)

緩和策として議論される代替制度

比例代表・多議席区
票と議席のズレを減らし「声の届く場」を広げることで、勝者総取りのゼロサム感を弱め分断を緩和し得ると提案されています。(Protect Democracy)

ランク付き投票(RCV)
好みの近い候補を順位付けする方式はネガティブキャンペーンの効果を下げ、当選者が広範な支持を得やすいとして分極化抑制の実証が増えています。(FairVote, Effective Government)

権力分有・熟議制度
委員会式の連立政権、住民協議会、熟議的世論調査など「参加を重層化」する設計は、多数決の排他性を補完できると評価されています。(WIRED)

まとめと留意点
多数決自体が分断の唯一の原因ではないが、勝者総取りの仕組みが二極化を合理化する強力な“燃料”になることは、比較研究・実証分析の共通結論である。(Protect Democracy, Taylor & Francis Online)
制度変更(比例代表やRCV)は有望だが、メディア環境・財政格差・ソーシャルメディアの設計など複合的改革と併せて初めて効果を持つとの慎重論もある。(Protect Democracy, gspp.berkeley.edu)



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