NISHIO Hirokazu[Translate]
tmutalks2017qa
首都大学東京 情報通信特別講義2017へのフィードバックとそれに対する回答です。

僕が言葉足らずなせいで伝わってなさそうだったので補足を書きました: 機械の知能と人間の知能

その他:

>今までノートによくメモしていたが、授業で付箋を使う方法を学んだ。付箋に書いてグループ分けすれば、そのグループ内で組み合わせることで思いもよらない発想が生まれるのではないか。
一点補足すると、ノートにも良いところがあります。それは長期保存ができることです。
ノートと比べた時に付箋が良いところは、一覧性です。ノートでは、例えば10ページ離れて書かれたアイデアの断片を並べて見比べることができません。
それぞれの方法の良い所を活用していくとよいでしょう。

>科学とは対照実験だけではなく、世の中の法則・事実全般を表すものであり、科学が対応しきれないというよりは、哲学は科学とは違う視点、事実だけが真実とはなりえないことの証明であるという見方もできる
えーと、スライドにないことを質疑の時に口頭でしゃべったので誤解を生んでしまったように見えます。すみません。
反論する風の口調ですが、主張内容に特に僕の主張との食い違いを感じません。
「事実だけが真実とはなりえない」に関して「うん、そうだよね」って感じですね。
細かいことを言えば「事実と真実をどういう意味で使い分けているのか?」とか質問し返したくなりますが…。
スライドはこちら 正しさとは何か
簡潔に要約すれば「正しさについての考え方は複数あって、絶対的な真実は存在しない」という内容です。

>経験(3次元)を図表(2次元)にし、言葉(1次元)にし、と微分していくことで人に伝わり、自分に伝わったことは逆に積分していくことによって実行していくと考えた
おもしろいメタファーです
その「微分」「積分」とは具体的には何だろう、と考えていくともっと説得力が増すかなと思います。
自分の具体的な経験談を絡めるとかね。

>意見する余地がない。何か講師が詰め切れてない内容を入れて、問題の形で出すとよいかも
そうかも!
でも他の人たちは色々意見している。
なので「『意見する余地がない』という解釈が誤り」だと観測事実は語っている
わざと仕込まなくても意見する余地はたくさんあるのではないかな。

>今までは思いついたことをすぐ実行していた。思いついたことを書きだし、まとめて、グループを対比させることで新しい考えが生み出されそうだ
うん。あと選択肢が多い方が意思決定の質が上がる、って研究もあるね。see 選択肢の量と意思決定の質

>大学生活の中でずっと続けていくことのできるものを見つけたい
うーん、ずっと続ける必要はあるの?
大学生の時点って社会人経験とかないわけなので、社会人に比べてかなり視野が狭いと思う。その状況で「コレだ!」って決めたものって、所詮は狭い視野の中で一番良さそうってだけにすぎないよね。
もっと良さそうなものが見つかったら、すぐ乗り換えていいんじゃないかな。

>ネットで質問したら大勢の人が答えてくれる
そうかな?答える人が何を対価として行動しているか見落としているのじゃないかな。
例えば質問に回答することで「質問に回答する自分は社会に価値を提供している」という社会に必要とされてる実感とか。
今回の僕の講義が仮にYouTubeに90分の動画としてアップロードされてたとして、みんなはそれを見て、今回のようにフィードバックを返すだろうか?出席することが単位につながると思うから聞きに来て、提出することが単位の要件だから答案用紙を提出したのではないの?
あと、質問に対する回答を求める場合は、質問者が何を聞きたいかを明確にする必要がある。
など、インターネット上で質問して有益な結果を得るのはなかなか難しいのだけど、運よく良い結果が得られることもあるからあまり期待せずに質問してみるのもよいかも。

>自分の興味があることを実践することのリスクは高いと思う
じゃあ逆に何のリスクが低い?
「自分は興味が持てないが周囲の人がやれと言ったこと」を真面目にこなしている人生ならリスクが低い?
入社したら定年まで確実に安泰だった時代はそうだったかもしれない
だけど、今は中年でリストラされるリスクがある時代だよね
「周りがやれと言ったことはまじめにやります!」みたいな中年、あなたが人事担当だったら採用する?
よっぽど彼の今持っている知識が自社のビジネスに有用だったらべつだけど、そうじゃないなら、同じ給料だったら若くて体力のある人の方がいいな。
ということはそういう中年には若者より安い給料しか出なくなるよね。

>大学は多様性のある学部がある
そう、だからこそチャンスだ

>意欲的に話を聞けるような賢い人になりたい
意欲と賢さを関連づけているのはおかしい。意欲はあるけど賢くない人もいるし、賢いけども意欲のない人もいる。
現時点での賢さがどうであれ、意欲があれば成長していくだろうと僕は思っている。
逆に、意欲のない人に意欲を出させるのは難しい。

>人間がコンピュータを使うことで人間はダメになるのではないか
たとえばパソコンのかな漢字変換を使うことで、人間は漢字を書くことが以前よりも苦手になっただろう。
現象としてはその通り。
だけど、それを「ダメになった」と思うのは解釈。
なぜ多くの人が「漢字を書く能力」を保つために手書きで文章を書くのではなくパソコンを使って文章を書くかというと、多くの人は「漢字を書く能力」より「便利であること」の方を重視しているからだ。

>人間が自ら何かをすることをしなくなる危険性はないだろうか
あるかもしれない。
実際、パチンコ屋とかに行くと、レバーを握ってLEDがチカチカするのをぼんやり眺めている人たちがいっぱいいる。

>大学生の時にもっとやっておけばよかったなと思うことは?
もっと他の学部の教科書とかを生協の売店で立ち読みしたらよかった
大学院に進むときに別の大学に行ったんだけども、売店の品ぞろえがイマイチだった
進んだ先が理系の大学院だったので「文系も含めた多種多様な分野の教科書が並んでいる」って環境を体験できたのは学部の間だけだった

>自分のしたいことが抽象的にぼんやりとしかわからない人は、大学生活で何を意識すべきか
それは「自分がしたいと思えるような面白い対象」をまだ見つけてない状況。
だから、とにかく色々なものを見聞きするとよい。

>機械が人間を強化する、その機械を最初に開発した人は強化した以上の能力を持っていたのか、それとも自分の能力を超えたものを作ることができるのか?
例えば具体的に自動車のことを考えてみると、人間は自動車より早く走れないけども、自動車を開発することができるよね。
「ある能力Xを強化する機械」を作るのに「能力X」は必要じゃない。

>検索エンジンや電子メールなどのソフトウェアの中で、最も人間の能力を高めたのは何か?
何が一番かってのは難しい質問だなぁ
「プログラミング言語」が誕生したことによって、それまでは01の羅列だったものが「人間に分かりやすい表現でプログラムを記述する」ということができるようになった。
大部分のプログラムは、このプログラミング言語の誕生がなければ生まれてこなかっただろう。複雑すぎて人間の手におえなかったり、コストがかかりすぎて開発されなかったり。

>Twitterなどの情報洪水を収めるためには、個人それぞれが気になるキーワードや興味のあることを設定し、それに関連する情報だけを見られるようにすればよい
実際、キーワードでの検索とかハッシュタグとかで一部実現されていますね
現時点のTwitterの検索機能で実現されていることは、特定のキーワードが含まれているTweetを表示することくらいかな。
一方で「興味のあること」はどうやって表現するのか、「それに関連する」をどうやって判定するのか、はキーワードだけでは少々力不足。
例えば僕は「未踏」に興味があるんだけど、これをキーワードにすると「未踏峰」とか「未踏召喚」「未踏確認」とか関係ないものがヒットしてしまう。
どうすれば良いだろう、というのが小町先生の研究している自然言語処理の一分野

>自分の経験を話すのが大事という話、確かに自分が塾で英語を教えていた時も、自分の実際の間違えた経験を絡めたらより理解してくれた
~という経験談もとてもいいですね!

>他人の受け売りの哲学と自ら本当にする哲学
「受け売りの哲学」「自らする哲学」の区別はとても参考になりました。
僕が「哲学が重要」と言ったとき、暗黙に「自らする哲学」をイメージしていました。
受け売りだけどプラトンは「本質的な知識は自ら生み出さなければならない」と書いていて、僕もこれに賛成です
逆に言えば、本に書いてあることを「本に書いてあったから正しい」みたいな態度でしゃべる「受け売りの哲学」は、「根無し草の知識」で「取ってきた桜の枝」なので有益な応用につながらず「有用性」がない、くだらない行為。スライドのあちこちとつながった!
「受け売りの哲学」と「自らする哲学」という切り口に似ている切り口:「哲学の歴史」と「哲学の修行」
誰がどういったかの歴史的事実を収集分類する学問としての哲学と、常に自分に問いかけ続ける修行としての哲学がある。
>バカの方が幸せという可能性は?
その可能性はある。これは正解の分からない問題。
僕の人生で「学ぶ」と「バカでいる」のどちらを選ぶかは僕の自由で、僕は「学ぶ」を選んでいる。
この選択が正しいかは僕が死ぬ時にしかわからないし、みなさんがどちらを選ぶかは皆さんの自由。

>締切が迫らないと実行できない
それは基本的には、やろうとしていることが「大きすぎる」「あいまいで何を目指したらいいかわからない」「最初の一歩として何をしたらいいかわからない」などの状態じゃないかなと思います。 #あいまいで大きなタスク

>自分の考えを人に伝えようとすることで、初めてまとまったり、わかったりすると思います。
その通りだと思います。僕のこの発表も、伝えようとすることで作られてきました。

>失敗が学びのチャンスだという考え方は面白い。ただ、失敗を繰り返すと精神的負担が大きい。どう乗り越えたらいいか。
「これなら失敗しないはず」と思ってて失敗すると辛いけど「うまく行くかどうかわからないけど試してみよ~」という気持で挑戦してみたら、失敗しても「あ~、ダメだったか~」って感じになるんじゃないかな?

2022/9/29
会議のために久しぶりに出社するにあたって、隙間時間にScrapboxの過去記事を発掘してみるかなーとランダムボタンを押したらこれが出てきたので電車移動の時間をTwitterを眺めるよりも楽しく過ごすことができた
このページは「大きな塊」なので分割していった方が良いかもしれない
イベントが終わった直後はそのイベントに関するものがまとまっていた方が有益、しかし時間が経つとまとまっていることに意味がなくなってくる、分解していった方が流動性が高まる
イベントに向けて講義資料という大きな木を育てていって、イベント後にその木の更新が止まり枯れ木の倒木になる。その後、木が分解されていき、豊かな腐葉土になる。

2024-12-18
o1 Pro以下は提示されたテキストを要点・テーマごとに分解した上での簡潔なまとめです。

1. 付箋とノートの使い分け
付箋:発想の展開やアイデア同士の比較に有効
ノート:長期保存、記録に有効
両者の利点を活用することが望ましい

2. 科学・哲学の考え方
事実と真実の区別、哲学的視点が必要
「絶対的な正しさは存在しない」という見解
自分の考え方や言葉の定義を問い直す姿勢が重要

3. アイデアの「微分・積分」的伝達
経験→図→言葉へと還元(微分)することで共有化
再度イメージを発展(積分)させることで新たな行動へ

4. 意見する余地の有無
資料や講義にはすでに意見・解釈の余地がある
発信者がわざわざ「未完の問題」を仕込まなくても、捉え方次第で意見は可能

5. 選択肢と意思決定
アイデアや選択肢が増えるほど質の高い意思決定が可能
ネット上の質問に対する回答は対価を求める行為

6. 興味とリスク
「興味あること」に挑戦するリスクと、「周囲に従う」人生のリスク比較
現代はどの生き方にもリスクがある

7. 大学での行動指針
多様な分野に触れて視野を広げる
「続けるべきもの」を無理に決めるより、柔軟に変化してよい

8. コンピュータがもたらす影響
人間の能力低下(例:漢字)は起こり得るが、それは「便利さ」重視の結果
機械が人間の能力を超えるものを作る例(自動車)からわかる通り、元の能力を超えたものの発明は可能

9. 情報洪水への対応
キーワード検索やハッシュタグで情報絞り込みは可能
しかし「興味」の定義や関連判定は難しく、自然言語処理の課題

10. 哲学の「受け売り」と「自ら行う哲学」
「自ら考える哲学」は根のある知識となる
「他人の説の丸暗記」は応用が利かず無意味

11. 幸せとバカでいること・学ぶこと
「学ぶ」か「バカでいる」かの選択は個人の自由で正解はない

12. 締切がないと実行できない問題
タスクがあいまい・大きすぎると実行力が落ちる
小さく明確な行動に落とし込むことで対処可能

13. 失敗の捉え方
失敗を前提とした実験的な姿勢であれば、精神的負担は軽減

14. 情報の「大きな塊」の再利用
イベント後は資料を分解・再構成することで新たな有用性や流動性が生まれる

以上、元の長文をテーマ別に整理・分解し、ポイントを短くまとめました。

"Engineer's way of creating knowledge" the English version of my book is now available on [Engineer's way of creating knowledge]

(C)NISHIO Hirokazu / Converted from [Scrapbox] at [Edit]