NISHIO Hirokazu[Translate]
ネットワーク形成システムとしての未踏
2011年当時、未踏に関して1ページの記事を書けと竹内先生に言われて、僕が一番伝えるべきだと考えたこと
情報処理,52(12),1487-1487 (2011-11-15)
自己紹介皆無で書いてから「自己紹介を入れろ」と言われたのでギリギリまで削って大変だった
「コミュニティ」や「ネットワーク」が字数が多いのでアルファベットに置き換えたり…
未踏とは技術的に高い素養を持った人を選抜し社会関係資本を集中させるシステム #選択と集中
落合陽一 未踏は隣の人と「すごい」という基準で勝負できるのが面白いところ」

あとで全文載せるか(メモ)

2026-09-11
著者本人なのにコピー禁止PDFに阻まれてげんなりしてたんだけど、AIの進歩によってOCRして元に戻すという穴掘って埋めるような情報処理が可能になったw
ついでに「コミュニティ」や「ネットワーク」を普通の表現に戻してあります

本文
私の未踏との出会いは、大学2年の夏、和田健之介氏のプロジェクト[1]で、電磁気や進化の実験のための仮想世界を作ったこと、そして彼に教わって興味を持ち、未踏ユースでゲノム情報の可視化ソフトを開発したことだ。その後、数学的構造の美しさを可視化したCG作品で受賞したり、高機能自閉症に関心を持ったり[2]、東工大の技術経営戦略分野で社会科学を学んだりしている。
面白いものを生みだすには異分野の結合が重要だ。かつては私は自分が複数分野を学ぶことが必須だと考えていたが、最近は得意分野の異なる人たちをつなぎあわせてコミュニティを作ることでも実現できると考えている。どうつなぐのがよいだろうか? 人間の認知能力には限界があり、大きすぎるコミュニティでは結合が疎になる。また、共に何かを行うには相手を信用できることも重要であり、それには共通の友人の存在が有効だ[3]。コミュニティの外との人間関係が新しい情報の獲得に重要である[4]こともあわせると、小規模で密なコミュニティが、両方に属する個人を介してつながりあうネットワーク構造が好ましい(図-1)。
幸い、未踏ユースにはネットワーク構造を作り出すシステムがあった。ブースト会議だ。これが同期の横糸と採択年度の異なるOBとの縦糸を編み上げネットワーク構造を形成した。このネットワーク構造からは、いくつもの面白い成果が生まれており、私は今後も生まれ続けると信じている。このようなネットワーク構造を増やせば世界はもっと面白くなるだろう。そこで事例を3つ紹介する。
1つ目、セキュリティ&プログラミングキャンプは、IT意識の向上を狙った、22歳以下の若者を対象とするIPAの事業である。全国から選抜された60人が5つのクラスに分かれ異なる専門分野について合宿形式で学ぶ。私はプログラミング言語クラスのクラス長として参加したが、参加者の感想に感銘を受けたので紹介したい。それは「自分とプロトコルの合う友だちが見つかった」だ。専門クラス内での交流、キャンプ全体としての交流で出会いの機会を作る。さらに、選抜されたOBが参加者のサポートをする仕組みで、採択年度を越えたつながりを作る。合宿形式で同じ釜の飯を食うことも重要な要素だろう。これらの施策により参加者は、興味の一致した人だけではなく、専門の異なる人ともネットワーク構造を形成できる。
2つ目、シリコンバレーの有力ベンチャーキャピタルであるY Combinatorもまたネットワーク形成を重視している。Dropboxを創業したDrew Houstonは「Y Combinatorには非常に素晴らしい同期生たちのネットワークがある(略)この価値は過小評価されている」と語っている[5]。Y Combinatorの出資額が未踏と同程度(3人で2万ドル)という点も興味深い。金額ではなくネットワーク構造形成が重要なのだ。
3つ目、サイボウズ・ラボユースは、弊社(サイボウズ)が今年から始めた若手エンジニア育成事業である。開発合宿という形で採択者を集めネットワーク形成を図っている。まだ始まったばかりの事業なので至らない点もあるだろうが、今後この事業から何か面白いものが生まれると期待したい。
行われつつあるネットワーク形成について3つの事例を紹介した。日本中の面白い人たちの間でNW形成が盛んになれば、きっともっと面白い世界になるだろう。みなさんにもできることがあるはずだ。この記事が一助となれば幸いである。

参考文献
1)平成13年度未踏ソフトウェア創造事業 竹内6-61和田, http://bit.ly/oFpb8t
2)コンピュータは世界を広げる実験道具 西尾泰和さんのエンジニアライフ - 特集:No okyuu, No Life, http://bit.ly/qAdbs6
3)Binmore, K. : Review of The Complexity of Cooperation (by Robert Axelrod), Journal of Artificial Societies and Social Simulation (1998).
4)Granovetter, M. S. : The Strength of Weak Ties, The American Journal of Sociology, 78(6): pp.1360–1380 (1973).
5)なぜY Combinatorだけ特別? Dropbox創業者に聞いた − @IT, http://bit.ly/idoMXn
(2011年9月15日受付)

図-1 コミュニティの構造
凡例:人/コミュニティ
認知能力の限界を各点の位数が6であることで表現している。
左:密だが情報流通の範囲が狭い構造。
中:小さな密コミュニティがつながりあうネットワーク構造。
右:情報流通は広いが1対1の関係のため囚人のジレンマに脆弱な構造。

GPTによる解説
核心は「異分野を結びつける場所」の変更
この文章で重要なのは、単に「人脈が大切だ」と述べていることではありません。異分野の知識を結合する場所を、一人の頭の中だけでなく、人と人の関係にも求めていることです。
以前の考え方では、自分が複数の分野を学び、その知識を自分の中で結びつける必要があった。それに対して本文では、専門の異なる人たちが協働できる関係をつくることでも、異分野の結合を実現できる、と考えています。個人が複数分野を学ぶことの否定ではなく、それを必須条件としなくなったという変化です。
すると、次に問うべきことも変わります。「自分が何を学ぶか」だけでなく、「異なる専門を持つ人たちが、どうつながっていれば一緒に何かを生み出せるか」が問題になる。この文章の中心は、その接続の設計です。

図のポイントは「関係の数を増やさず、配置を変える」
図では、一人が持つ接続数を6にそろえています。ここでの「6」は認知能力の限界を表すための設定であり、「人間は6人としか付き合えない」という実測値の提示ではありません。限られた接続をどう配分するかを、三つの構造で比較しています。
構造 / 図に描かれたつながり方 / 本文が重視する性質
左 /7人が全員とつながる。各人の6本の接続が、すべて集団内部に向く / 密な関係を持てる一方、図の集団外にはつながっていない
中 / 4人ずつの密な集団が、一部の人を共有してつながる / 集団内の密な関係と、別の集団への接続を両立する
右 / 接続が外へ枝分かれする一方、図の範囲では知人同士の横のつながりがない / 情報の到達範囲は広いが、共通の知人を通じた信頼の支えが乏しい
この比較が図の設計意図です。
特に中央の図は、単に「密な集団を何本かの線でつないだもの」ではありません。一人が二つのコミュニティに所属することで、コミュニティ同士が重なっています。 中央付近の人は、一方の4人組の中に3本、もう一方の4人組の中に3本の接続を持ち、合計6本になっています。
つまり、左では関係を一つの集団に集中させているのに対し、中央では複数の小集団に配分している。これは、本文の「両方に属する個人を介してつながりあう」を具体化したものです。限られた関係数でも、その配分を変えることで、密な関係を残しながら接続範囲を広げられる、という提案になっています。

「新しい情報が届くこと」と「一緒に行動できること」を分けている
本文は、コミュニティに二つの異なる役割を求めています。
一つは、外部から新しい知識や視点を得ること。もう一つは、その知識を使って誰かと一緒に何かをすることです。後者には、単に連絡先を知っているだけではなく、相手を信用できることが重要だと述べています。
この区別に沿って読むと、左の構造への問題提起は「仲がよいこと」ではなく、つながりが内部だけで完結していることです。一方、右への問題提起は「広くつながること」ではなく、その関係に共通の友人などの支えがないことです。
したがって、提案は「密な関係より疎な関係がよい」でも、その逆でもありません。協働のための密な関係を保ちながら、異なる情報に接する経路も持つという組み合わせです。

合宿や育成事業を「関係が残る仕組み」として見ている
この観点から見ると、後半の事例の選び方が理解できます。
セキュリティ&プログラミングキャンプについては、専門クラス内の交流、キャンプ全体の交流、OBによる支援という、異なる範囲の接続が説明されています。専門の近い人と関係を深めるだけでなく、専門の違う人、参加年度の違う人ともつながる仕組みとして捉えているわけです。
ここで紹介される「自分とプロトコルの合う友だちが見つかった」という感想も重要です。「専門や興味が完全に同じ」ではなく、やりとりが成立する共通基盤を持った相手に出会えた、という意味に読めます。本文がその後で「興味の一致した人だけではなく、専門の異なる人とも」と述べていることとも対応しています。
Y Combinatorやサイボウズ・ラボユースの例も、資金提供や技術教育という個人への支援だけでなく、参加者同士の関係をつくる働きに注目して紹介されています。事業の成果を「参加者が何を習得したか」だけでなく、「終了後、誰と何をできるようになったか」から捉え直す文章だと解釈できます。

提案としての主張と、実証されたことは分けて読む必要がある
この文章は、望ましいネットワーク構造の提案と、その考え方に対応する事例の紹介です。中央の構造が常に最適だと比較実験で示した文章ではありません。また、図だけから「1対1では協力できない」「密な集団なら必ず信用できる」とまでは導けません。図は、本文が重視する条件を取り出した模式図として読むのが適切です。
同様に、「金額ではなくネットワーク形成が重要なのだ」は、資金提供の効果がないという証明ではなく、ネットワーク形成の価値を重視する主張です。出資額や制度の説明も、末尾に「2011年9月15日受付」とある当時の記述として読む必要があります。
全体を一文でまとめるなら、「異分野の結合を個人の学習能力だけに依存させず、小さな協働可能な集団が重なり合う構造によって実現しよう」という提案です。

2021-11-23追記
共通の友人の存在による囚人のジレンマの破壊についてはコミュニティによる生産性向上のすすめで詳しく説明した

"Engineer's way of creating knowledge" the English version of my book is now available on [Engineer's way of creating knowledge]

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