NISHIO Hirokazu[Translate]
ソマティック・マーカー仮説
ソマティック・マーカー仮説
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感情と政治参加をめぐる興味深い心理学的知見に触れる。神経科学者アントニオ・ダマシオソマティック・マーカー仮説は、意思決定において感情が不可欠の役割を果たすことを示した​。彼の研究では、感情を処理する脳部位に障害を負った患者は日常の選択すら極端に非効率になり、合理的判断がかえってできなくなる例が報告された。つまり、私たちは「理性だけ」で決めているつもりでも実際には情動による閾値調整が行われており、それなしでは判断が麻痺するのだ。これは政治的判断についても当てはまる。有権者が複雑な政策を判断する際、理論的コストベネフィット分析だけでなく直感的な好悪や信頼感情で判断しているのはある意味当然であり、それ自体は認知の仕組みとして必然とも言える。だとすれば民主主義プロセスにおいても、感情をいかに健全に巻き込みつつ集団意思決定を行うかが肝要となる。感情を切り離した「理性的公共圏」像は人間の実相に合わず、むしろ感情と理性の相互作用を前提に制度設計すべきだという方向性が導かれる。



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