NISHIO Hirokazu[Translate]
原稿:台湾
台湾では、熟議の実践が先にあり、その上でブロードリスニングが「熟議を改良するための部品」として導入されました。
台湾で2015年に行われたUberXの事例がよく言及されます。その前後も含めて見てみましょう。

2002年、台湾で初めての熟義の実験が行われる
2002年、台湾で初めての熟義が行わます。
テーマは「全民健保(国民健康保険)の給付範囲」、
「限られた財源の中で、どの医療項目を公費でカバーし、どこからを自己負担にするか」という、2026年の日本でも通用しそうなテーマでした。
この実験では20名の一般市民が、専門家の講義を受けて討議を行いました。
参加者は事前には健康保険制度をほとんど理解していませんでした。しかし資料と専門家説明により基礎知識を獲得し、公共利益の観点から理性的に政策を討議ができました。また、共有された基礎知識によって「討議の相手が知っていると仮定できる情報」が増え、議論の土台ができました。
これが発言機会の格差も縮小しました。
参加者が専門家の講義を聞いても専門家と同じ意見になるわけではないこともわかりました。参加者は専門家が事実を説明しているのか、それとも自分の価値判断を述べているのかを識別することができ、知識源としては尊重するが政策決定の最終権威とはみなしませんでした。
参加者はこの熟議の後、公共問題への関心が増加し、自分には公共問題を考える権利と能力があると認識し、政策議論を他者と行うようになりました。公共的議論に参加することで、理解と自信が高まり、さらに参加しやすくなる、という好循環が起きたわけです。
類似の試みは「公民會議」(公民会議, citizen consensus conference)と呼ばれています。2004~2005年の間に台湾は公民會議を合計22回開催しました。

vTaiwan誕生の流れ

台湾の熟議システムとして有名になったvTaiwanはどのように生まれたのでしょうか。数年遡って歴史を追いかけてみましょう。
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g0v
vTaiwanの話をする上で避けて通れないのが
台湾のシビックテック・コミュニティ
台湾零時政府g0v(ガブゼロ)です
g0vは2012年にエンジニアやデザイナー、ジャーナリストなどの有志によって始まった、市民主体のオープンソースコミュニティです。
今ではSlackに14000+人も参加者のいる巨大なコミュニティです
4人のエンジニアのチームがハッカソンで政府の予算を勝手に可視化するサイトを作ったのがはじまり
2012年に
このプロジェクトはハッカソンで5万NTD(日本円でおよそ25万円)の賞金を獲得し、
彼らは似た興味関心を持った人を巻き込んでいくために、その賞金を繰り返しハッカソンを開催することに使うことを決めます。
このときに作ったサイトをホストするためにg0v.twドメインをとった
これは台湾政府のドメインと1文字違いで
市民の側
勝手に可視化
肯定的な意味でfork without permission
改善をするのに許可を取る必要はない
勝手に新しいものを作れば良い
これはソフトウェアエンジニアによく知られたグレースホッパーの格言「
nobody mottoにも現れている
政府サイトが使いにくいときに、政府が改善しないことを「なぜ誰も改善しないのか」と嘆くのではなく
その「誰も行動しない」の「行動しない人」に自分も含まれていることを自覚しよう
「誰も万能ではない」と続きます
誰も万能ではないら、誰も最初から理想の世界を作ることはできないのです
一人一人が自分のできる範囲で世界をより良くすることを積み重ねて世界がだんだん良くなるのです
政府側の動き
政府側も手をこまねいていたわけではない。
は直訳すると「仮想世界の発展に対応するための法規の調整」という意味です。
2013年11月から蔡玉玲(台湾の当時の政務委員)が「虛擬世界發展法規調適」の推進を始め、同年から関連の諮詢會議(政策対話会議)が開催されています。
ただしこの時はまだ市民参加型ではありませんでした。
2014年3月18日、政府の方針に不満を持った300名を超える学生が立法院(日本の国会議事堂に相当)を占拠しました。
立法院は23日間に渡り選挙され、学生たちを支持する市民が数千から数万人で立法院周囲を取り囲みました。
ここでデジタル時代ならではのことが起こります。この出来事がリアルタイムでインターネット中継されたのです。
当初既存メディアの一部は学生を「暴徒」と呼んだのですが、ライブ中継によって警察・学生双方の行動が常時「大勢の市民に見られている」状態になり暴力の抑止力になりました。透明性が建設的な議論の土台になったわけです。
このライブ中継は当時メジャーだったライブ中継サービスのUstreamや、日本のニコニコ生放送で行われました。
niconico: 日本のニコニコ生放送では約22日間中継が続き、総視聴者数は881万人、コメント数は391万件を記録しました
単なるテレビ中継と違い、インターネットは双方向なので、立法院にいる学生は孤立せず、台湾中の20の団体とビデオ会議で協議ができました。台湾国内に限った話でもありません。学生たちは占拠二週目に オンライン掲示板サイトRedditで「なんでも聞いて」企画を開催しています。ここでは749件のコメントがやりとりされました。 https://www.reddit.com/r/IAmA/comments/21xsaz/we_are_students_that_have_taken_over_taiwans/
このインターネットによる双方向コミュニケーションに大きく寄与したのがg0vです。g0vには繰り返しハッカソンを開催するためにイベント設営のノウハウを持ったCPRチーム(Cable, Power, Radio)があり、100人以上のg0vメンバーがこの中継に関わりました。その中の一人としてのちにデジタル大臣になるAudrey Tangが350mのCAT-6ケーブルを敷設したエピソードも知られていますが、彼女一人が英雄的な振る舞いをしたのではなく、大勢の市民の力で実現されたのです。

Uberと既存タクシーの対立
同年、2014年7月8日ごろに数百台のタクシーが集結し、交通部(日本の国土交通省+総務省に相当)前で抗議が行われました。当時Uberなどの配車アプリが開発されたことで、無許可の自家用車がアプリで集客して実質的にタクシー営業をすることが可能になっており、既存のタクシー業界は厳格な取り締まりを要求しました。
蔡玉玲とg0vハッカソン
虛擬世界發展法規調適を推進していた蔡玉玲は、2014年12月20日の第11回g0vハッカソンに参加しました。
このハッカソンは土曜日の09:00–18:00のイベントで、定員127人のところ126人が参加申し込みをしていたことから規模感が想像できます。
このときに蔡玉玲が持ち込んだ問いが「台湾のスタートアップはどうすればケイマン諸島に本社を置かずに済むか?」でした。
唐突に思う読者がいるでしょう。これは台湾のスタートアップが登記をケイマン諸島で行う傾向があり、政府としてはどうしてなのか、どうすれば国内で登記してくれるのかを考えたかったわけです。デジタル世界の発展によって会社の登記場所と労働者の所在が疎結合になり、法律の調整が必要になった。「虛擬世界發展法規調適」の一環です。
この件はハッカソンで議論した結果、「スタートアップを台湾に留める説得方法を答えるより、問い自体を一般市民に開いて議論するべき」という結論になりました。この問題は会社法・税制・資本市場・規制などが絡む複雑な問題であり、ハッカソンに集まった人だけでこの1件の具体的問題を議論して答えを出すのではなく、国全体で合意形成する設計が必要だと言うわけです。こうして問題を解決するためのデジタル参加プラットフォームを作る、vTaiwanのプロジェクトが立ち上がりました。
vTaiwanの設計





設計メモから読み取れるポイントは次の通りです。^5
1. 抽象論ではなく「個案」から始める
曖昧な「共享經濟」一般論より、UberXという個別案件に絞る方針が明確に示されます。抽象語は人によって意味が違い、議論が空転しやすいからです。
2. 先導質問(最初の10問)を重視する
いきなり政策案の賛否を問わず、まず「事実提示→感受」の順で意見を引き出す設計です。^5^7
例えば「私はUberXに乗るとき保険が本当に適用されるのか不安だ」「料金の仕組みがわかりやすく表示されるべきだ」といった形で、政策提案ではなく生活者の感覚を問う短文から始めます。設計メモでは、最初の10問を「共通経験」「感覚」「争点」の配合で組むことが重視されていました。^5
3. 専門論点を一般語に「転訳」する
争点は標示・保険・納税・紛争解決などですが、法務用語のままだと参加層が狭まります。専門語を一般参加者に通じる表現へ転訳する作業を、最初からプロセスに組み込んでいました。^5
4. 参加者多様性を運用目標に置く
運転手・乗客・一般層などの多様性を意識し、最低500人参加という門槛を設定します。^5
ここでの500人は「政策を直接決める投票」ではなく、意見分布を把握するためのサンプリングとして設計されています。
5. オンライン意見をオフライン会議へ接続する
Pol.is上での収集の後、分析レポート募集、そして諮詢会議へ進む構造が最初から設計されていました。^5^6^7



vTaiwanという単一のサービスがあるのではなく、多様な既存サービスを使いながら回していく
2015-06-26~の2ヶ月
法制度化につながった: 原稿:台湾の事例2#69a58168000000000044bd39



この時に作られたvTaiwanが、その後も繰り返し使われた
34件ある
2015〜2018に26のイシューが議論された
このことがオンライン熟議に対する市民の理解度を高め、コミュニティを育てていった

一方でこの後しばらく下火になっている
ボランティア

2023年
8月9月オフラインイベント
前段階としてPolisで意見収集、TTTCで可視化

代表性の改善
この辺はカット
背景としてはオンライン広告詐欺
SNSに広告として有名人の画像などを使った広告を出し、詐欺的な金融商品をその人物が推薦しているかのようにみせかけるもの
政府がプラットフォームに干渉することに対して「言論の自由」を根拠にして反発するロジック
111コードを使ったランダムサンプリング
政府発信
SMS

熟議のための熟議のコミュニティ

日本では熟議の伝統が根付く前に可視化としてのブロードリスニングが入ってきた
台湾と同じ方法で追いかける必要はないが、2002年の熟議事例が示すように、市民にまず前提知識を与えてから議論をする場が増えることによって
より良い方向に進むのではないかと思う


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