自由と統制は誤った二項対立

以下は「自由 vs. 統制」という単純な二項対立で現実を切り取ることの危険性を論じている代表的な学術・思想系の文献です。いずれも「ゼロサムではない第三の枠組み」を提示し、複層的・分散的な権力やデジタル環境を視野に入れて再考を促しています。

1992

Gilles Deleuze, “Postscript on the Societies of Control”

近代の「規律社会」から、境界が溶け継続的にモニタリングされる「統制社会」への転換を指摘。自由と統制はもはや対極ではなく、自由と思われる行為がアルゴリズム的制御に包摂され得ると警告。

2010

Nadina Feješ, “Is there really a dichotomy between security and liberty?”

英国のテロ対策法制を事例に、〈安全のために自由を差し出す〉という政治的レトリックが“false dichotomy”を生み、実効性の低い立法を招くと批判。代替的アプローチを提示し「自由と安全は両立し得る」と論じる。

2020

Petter Törnberg & Justus Uitermark, “Complex Control and the Governmentality of Digital Platforms”

シェアリングエコノミーや「自己組織化」という自由の語りを、Foucault／Deleuze／Baumanの枠組みで再検討。プラットフォームは“自律”を標榜しつつ精緻な行動制御を行い、自由‐統制の二分法をかく乱すると指摘。

2020

Yevhen Laniuk, “Freedom in the Society of Control: Ethical Challenges”

Deleuze の統制社会論をアップデートし、データ主権・アルゴリズム的偏在権力の下では「自由の再定義」が不可欠と提言。自由をプライバシー管理やアルゴリズム監査など具体的実践に落とし込む必要性を説く。

1ビット思考（自由＝善／統制＝悪）に陥りやすく、アルゴリズム的監視 ＝ 統制の拡大を「自発的‐自由な選択」と誤認する危険。Deleuze の「統制社会」論が警告。