市場・階層・コミュニティ
1) 市場(Price / Market)
しくみ:価格シグナルで分散的に意思決定。取引は契約単位。
強み:資源配分が速い/創意工夫を誘発/退出・参入が容易。
弱み:外部性(環境・安全)や公共財を過小供給/情報の非対称。
例:B2B発注、クラウドの従量課金、広告入札。
向く条件:成果が明確に測れ、標準化でき、競争がある。
見る指標:価格弾力性、マージン、入札/成約率。
2) 階層(Hierarchy / Firm & Bureaucracy)
しくみ:組織内の命令・計画で調整。長期投資と資源の束ね。
強み:大規模協調・品質統制・責任の明確化が可能。
弱み:官僚化・情報遅延・イノベーションの停滞。
例:企業のサプライチェーン統括、官公庁の事業運営。
向く条件:高い相互依存、機密、長期・大規模プロジェクト。
見る指標:リードタイム、品質不良率、組織MTTR、固定費比率。
3) コミュニティ(Community / Norms & Commons)
しくみ:共有規範・評判・自発的貢献で調整。成果はコモンズへ。
強み:知識の高速集積・再利用・参加コストが低い。
弱み:無償依存・ガバナンス負荷・資金循環の脆弱さ。
例:OSS、Wikipedia、業界標準化団体、地域協同。
向く条件:成果が非競合的(知識)で再利用価値が高い。
見る指標:メンテ人数、Issue滞留、フォーク数、維持資金流入。
使い分けとハイブリッド
市場×階層:企業は内部で計画しつつ、外部は価格で調達(典型的サプライ網)。
市場×コミュニティ:OSSを基盤に商用SaaS(価格は市場、基盤はコモンズ)。
階層×コミュニティ:企業が標準化団体で仕様合意→社内実装。
現代的補足
プラットフォームやAI推薦は“準・計画”として市場/コミュニティに影響(露出・検索=実質的な調整)。
国家は外部性の内在化・安全基準・公共調達で三者を支える第4極。
超要約
市場=“価格”で分散調整
階層=“命令・計画”で集中調整
コミュニティ=“規範・評判”で自律調整
実務では三者を組み合わせて設計するのが最適です。
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この三角形がどこから来たのか(出典)を聞いた

あります。ただし「三角形」を単一の古典がそのまま提示したわけではなく、市場↔階層(企業)を定式化した古典に、コミュニティ/コモンズを第三の調整原理として重ねて再構成したものです。
市場 vs. 階層の古典
Williamson『Markets and Hierarchies』(1975):取引費用理論を発展させ、市場と階層の境界・選択を分析。 (
SSRN)
第三の原理(コミュニティ/ネットワーク)の提示
Adler & Heckscher(2006)『The Firm as a Collaborative Community』:知識経済における協働コミュニティを組織形態として体系化。 (
smlr.rutgers.edu)
要するに、Coase/Williamsonの「市場×階層」軸に、PowellやOstrom、Adlerらのコミュニティ/ネットワークを加えて、実務で使われる「市場・階層・コミュニティ」の三角形として広く参照される、という位置づけです。