テクノロジーとイノベーション解説
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テクノロジーとイノベーション 2014-07-17 西尾泰和
第11章
この最終章ではテクノロジー、
経済 、生物の3つの関係について議論をしている。
本発表では本書の内容を紹介し、具体例と関連研究を紹介し、最後にまとめて考察を行う。
紹介
考察
なぜ人間の意志を無視するのか?
端はどうなっているのか?
テクノロジーの進化の図式
紹介1
3つの原理
p.257
1:テクノロジーはすべて要素の組み合わせ
2:要素それ自体がテクノロジー
3:テクノロジーは何らかの目的において現象を利用している
3つの原理に疑問
1:テクノロジーはすべて要素の組み合わせ
2:要素それ自体がテクノロジー
この定義だとテクノロジーは無限に階層が続いていることになってしまうのでは?
→考察1「端はどうなっているのか?」
3つの原理に疑問
3:テクノロジーは何らかの目的において現象を利用している
たとえば「0による位取り」は?
テクノロジーではない?
→紹介2「テクノロジーが生まれるメカニズム」
紹介2
テクノロジーの生み出されるメカニズム p.258
ニーズとシーズ(ニーズを満たす効果)の結合
限界に直面する・新しい問題を生み出す
niche: (英)ニッチ(仏)ニーシュ(独)ニーシェ:くぼみ →
ハマナス 、
超好熱菌 ニーズはテクノロジー自体より、人間の欲望から引き出される
経済の役割
ニーズを知らせる
商業的に利用可能かのテスト
→「
商業的に利用可能 」とは「金を払う人がいて、黒字」つまり「人間の欲求を満たして、低コスト」
経済もテクノロジー
事業・生産手段・制度・組織などの「取り決め」がある
これが次代の「取り決め」の機会を作る
著者「だからテクノロジーと同じ構造だ!」
西尾「『3:テクノロジーは何らかの目的において現象を利用している』は無視なの?!」
→「取り決め」について考えてみよう10
取り決め(1/3)
例:物々交換(魚と山菜)
物の価値は主観的なので交換によって増加しうる
→何も物が作られなくても価値は生み出されうる
→無体物との交換で価値が生み出された
取り決め(2/3)
言葉を表現するための記号を取り決めることで同時同場所にいなくても情報を伝えることができるようになった
粘土板と楔形文字
0を用いた位取りでの計算は楽=人間の認知コストが節約される価値(
思惟経済 )
↑この価値は一人で使っても得られる
よい取り決めが普及することで事後的に標準化
取り決め(3/3)
自然現象を利用しない「取り決め」も価値を生み出し、人間のニーズを満たしうる
経済がテクノロジーというなら、この種の取り決めはすべてテクノロジー
他者との取り決めである必要はない。一人でもその人の認知コストを節約することができる。
紹介3
p.260
特に環境の変化が速い時、事前にルールを設計することができない
そこで対話型(インタラクティブ)に変化できるように作る
「環境の変化に適応できる設計」って?→具体例14
環境の変化に適応
環境の変化に適応
例:スマートフォン
事前にユーザが求める機能を設計し用意するのではなく、ユーザが自分のニーズに応じてアプリを入れることができる
スマホ視点で見ると「事前に知ることが困難な環境(ユーザニーズ)に事後的に適応する仕組み」
環境の変化に適応
例:行動情報収集+ソフトウェアアップデート
Excelなど。事前にユーザがどういう操作をするか、どこでつまずくかがわからない。そこでユーザの操作の情報を収集する。その情報を元に改善を行い、ソフトウェアをアップデートする。
環境の変化に適応
例:Webサービスの負荷分散(Amazon EC2など)
事前にどれくらいのアクセスが来るかわからないので適切な設備投資ができない。そこでアクセスを観察して事後的に設備を増やす仕組みを導入。
予測不能、判断速度が重要→自動化
自動化によって人間の判断が介在しなくなった!
生物になる p.261-262
これは「学習」と言ってよいのではないか?
テクノロジーが知性を獲得したのではないか?
テクノロジーが生物学になるのでは?
西尾「『知性の獲得』から『生物学』にギャップが…」「『生物』じゃなくて『生物学』なの??」
→生物について考察2で詳しく考察
紹介4
競争優位の源泉
p.265
「リソースを蓄え、それを組み合わせて、生産物を作り出す能力」ではなく
だいたいドラッカーが言ってることと同じ
競争優位の源泉
産業革命当時の競争優位
リソースをたくさん持っている
加工設備を持っている
知識をたくさん持っている
それを組み合わせる能力を持っている
「知識を組み合わせる能力」というと個人の能力と考えられがちだが組織としての能力を増強することも重要
人間の能力は、言語・人工物・方法論によって強化される
紹介5
テクノロジーとどう向き合うか
p.269
自然を隷属させるテクノロジーと、自然の延長線上にあるテクノロジーの区別が大事
(西尾)あまり重要視してない
考察1
人間の意志は?
著者はなぜ「人間の意思」を無視するのか?
1970s
自分の遺伝子を残すことに寄与しない「
利他的行動 」をする個体がいるのはなぜか?
その個体視点だと合理的ではないが、遺伝子視点だと一部の利他的行動は合理的
その個体に不利でも同じ遺伝子を持つ別の個体に有利
主体は個体ではなく、遺伝子
情報は人間の頭脳によって複製される
複製の効率が良いものと悪いものがあり、良い物が広まり、悪いものは淘汰される
つまり情報は遺伝子のようなものであり、遺伝子と同じように自然淘汰によって進化する
K.ケリー2011
主語はTechnology
テクニウム=テクノロジーの集合体
生命の進化とテクニウムの進化を比較
進化に働く力のうち構造的必然性と歴史的偶発性は共通
生命の進化に働く3つ目の力は盲目的な自然選択
Q:著者はなぜ「人間の意思」を無視するのか?
「人間の意志がテクノロジーの進化を遺伝的な進化より速くしている原因」とK.ケリーは主張している。これとの差別化?
考察2
端はどうなっている?
「Xはすべて要素の組み合わせ+要素はX」という定義だとXは無限に階層が続いてしまう。端はどうなっているのか?
最初のテクノロジー、最初の生命、最初の経済
最初のテクノロジー
枝を使って虫を取るキツツキフィンチ
石の上に骨や亀を落として割って食べるヒゲワシ
食欲というニーズを満たすために現象を利用
組み合わせではない
最初の生命
原始大気に放電を繰り返すと、たまたまアミノ酸などの有機化合物ができる
上記実験で作られたアミノ酸が重合してできるペプチドには触媒活性がある→反応を促進する
最初の生命
水と油の疎水性相互作用で形状が維持された球状の物体。アレクサンドル・オパーリンが生命の起源ではないかと主張
(細胞膜:脂質二重層)
…これらのいろいろな要素がランダムに組み合わされる中で、たまたま自己複製の能力を持ったものが増殖したのでは(西尾)
最初の経済
菌根菌(などの共生関係) 4億年前
土壌中からリン酸や窒素を吸収して宿主植物に供給し、宿主植物が光合成により生産した炭素化合物を得る
人間の場合:物々交換
魚を提供し、代わりに山菜を得る
たまたま
たまたま亀を石に落としたら割れた
たまたま自己複製できるようになった
たまたま交換にメリットがある二者が出会った
最初のXはたまたま生まれる
考察3
ダーウィン的進化
ダーウィン的進化の原理は「ランダム→たまたま成功したものが増える」
ランダム変化 遺伝子 ランダム組み合わせ 個体 自然淘汰 生き残った個体
ランダム変化 知識 ランダム組み合わせ 応用 成功 生き残った応用
ランダムを超えて
テクノロジーの進化のメカニズムはダーウィンの進化論と異なる(p.258)
ランダムを超えて
人間の能力は、言語・人工物・方法論によって強化される
人工物→道具・計測機器・加工機器
言語→概念・現象の呼び名の取り決め 例: 「力」
方法論→科学的方法論・実験手法
考察4
総合 :見落としがないことを十分に確かめて、完全な列挙と再構成により全体を再構成する。
デカルト
もちろん実験や観測データも信用できない。
その理性を使って、すべてを疑った結果「自分の存在」だけは残った
→神を信じ、科学の正しさが疑われた
時代背景
1543年、死と共に出版
1637年デカルト「方法序説」
科学よりもキリスト教のほうが強かった時代41
世界の成り立ち
キリスト教:「神」という
絶対的秩序 が「世界を作った」という思想
←いいすぎ
ID説 :高度な知性による設計理科教育で進化論と併記
ギリシャ:「世界は生まれ育つ」思想
→現実はそれをかたどって「作られた」
キリスト教: ユダヤ教から
超越者 の概念を引き継ぐ、中世にプラトンを正当化に使う
p.267
哲学史におけるキリスト教的価値観との戦いをなぞっている
考察5
テクノロジーの進化
ダーウィン的進化を超える理由は?
→方法論は何から生まれる?
→淘汰の方向性はどう決まる?
何から生まれる?
方法論も階層になっている
方法論は「よい応用を生み出す」という価値を生む決め事
→経済同様にテクノロジー
端は“ランダム"
何が決める?
経済の役割
商業的に利用可能かのテスト
(ケリー)社会の集団的自由意志
市場による加速
予期せぬ成功:狙いと違うニーズを満たす
広く使われているものの改善バイアス
まとめ
物だけでなく取り決め=概念も価値を生む
方法論によりダーウィン的進化よりも効率よく「組み合わせ」を探索できる
方法論も階層的なテクノロジー
市場は開放性を高める方向にバイアス
→開放性により要素の組み合わせが複雑化
おまけ
プログラミング
関数定義:複雑な一連の処理に名前をつけ、以降その名前でその処理を行えるようにする
=「言語の語句のような設計」(4章)
=認知コストを削減する「取り決め」
=階層的コンポーネント(関数は他の関数を作る部品に使える)
プログラミング言語の歴史
誕生前:ワイヤーで配線することで計算内容を変更できるコンピュータ
配線は面倒→データを記述することで計算内容を変更できるコンピュータ
データが01001010ではわかりにくい→人間にわかりやすいアルファベットを01001010に変換するプログラム
どういう記法にするかは“決め事"
プログラミング言語の歴史
類似の処理を何度も書くのは面倒
→プログラム片を再利用するための決め事
決め事を守るのが面倒
→コンピュータにプログラム再利用のための命令を追加(ret)
再利用するプログラムの位置を数値で覚えておくのが面倒
→プログラム片に名前を付ける記法・呼び出す記法、という決め事
→「関数」の概念の誕生
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